研究者インタビュー 百瀬 莉恵子

記念すべき第1回目の研究者インタビューでは、若手研究者として活躍されている百瀬 莉恵子さんにお話を伺いました。

【プロフィール】

百瀬 莉恵子(ももせ りえこ)
所属:東京大学 カブリ数物連携宇宙研究機構 特別研究員
最終学歴:東京大学理学系研究科天文学専攻 博士(理学)
主な研究テーマ:銀河の形成・進化、銀河における物質循環
最新論文:”Catch me if you can: Biased distribution of Lyα-emitting galaxies according to the viewing direction” (2021)

研究者を志した理由や、きっかけを教えてください。

百瀬さん:私、実は元々学校の先生になりたかったんです。高校入学する時には大学で何を勉強したいかを考えていて、その時に天文や宇宙のことを勉強したいと決めていたんです。ただ、私少し生意気だったので、教育学を学びたい訳ではなく研究などを学んだ上で教師になりたいと思っていました。(笑)

そんな時、たまたま高校の教育実習で来ていた先生が宇宙物理理論研究室で研究をされている大学院生の方だったので、宇宙の勉強をしたいという話をしたら、いろんな話や大学のイベントを紹介してくださったので参加してみたんです。そこで出会った院生の方が「研究という好きなことをやりながら、お金をもらえるってすごく幸せなことだと思うんだよね。」と仰っていたのがとても印象的でカッコいいなと思ったのを覚えています。

それまで研究者という仕事があることも知らなかった私が、そこでの出会いをきっかけに研究者というのが身近に感じられ、目指すようになりました。

百瀬さんから見て、若手研究者を取り巻く環境やキャリアについてどう考えられていますか?

百瀬さん:正直、研究者を取り巻く環境は厳しいと感じています。そう感じる理由はいくつかあるのですが、当事者として大きく3つ近因するところがあります。

1つ目は、キャリアのパスが少ない。ということです。

研究を辞めたら何をしていいのか分からない。潰しが利かない。という現実があったり、キャリアの中に多様性がないことをすごく感じます。

2つ目は、アカデミア側の問題で、とにかくポストがない。ということです。

ポスドクのポストはあっても、任期無しの腰を据えて研究ができるポストが少ないのが現実です。また、その狭き門を通過し、ポスドクの座に就くことができるのは、優秀な人が就く場合もあれば、先生との関係性だけがものを言うこともあったり、プレゼンがすごく上手な方が選ばれたりと、優秀でコツコツ研究を続けてきた方が残れない。という現状に少しモヤっとしますね。

将来的に若手研究者にとっての環境がどうなっていくといいと思われますか?

百瀬さん:もちろんベストは国内のポストが増えることだと思います。しかし、この問題の解決は一朝一夕にはいかないのも事実だと思います。理想的には、研究を続けたいと思う人が続けられる環境ができることが望ましいと思います。そのためにはアカデミアにそういった場所ができることだと思いますが、海外には独立した研究所があったりもします。例えばカーネギー研究所のような科学研究を支援する財団があります。

インタビュアー:カーネギー研究所はいろんなところにあるんですか?

百瀬さん:カーネギー研究所は植物生物学、発生生物学、天文学、材質科学、環境生態学、地球惑星科学の6分野の研究をサポートしており、アメリカ合衆国各地に設置されています。日本にもこのような研究費をサポートしてもらえるような、研究を続けられる場所が増えるといいなとずっと思っています。ただ、一方で2つ目で挙げていたアカデミア側にもある問題とは逆で、私たち研究者側にも問題があると思っています。

それが3つ目の、「アカデミアで研究できなくなってしまったらもうだめ」というマインドが定着してしまっている。ということです。

正直、私自身もそういう考え方が抜けないなと思っています。でも最近、国立天文台とかが始めようとしているのが、研究者としてのポストも担保されながら半分は新聞社にもポストがあり、科学ライターのような仕事もしながら研究も続ける。なんていうスタイルもあったりもします。

研究、記者の二刀流公募 国立天文台と本紙 連携協定

岩手日報ニュース

どちらに席を置いたにしても、研究は続けることができる。といったマインドチェンジを私たち研究者もしていかなくては、今の日本で研究を続けていくのは難しいのではないかと感じています。

ホライズンの事業になぜ興味を持っていただけたのでしょうか?

百瀬さん:研究者としてキャリアをアカデミックの中で続けるのが難しい。でも研究は続けたいという状況になった時に、やはり収入面での不安が一番あると思います。そんな中、理系学生や研究者が多くの場所で活躍できるよう選択肢を提供してもらえるというところで興味を持ちました。

あと、これはホライズンに期待していることなのですが、将来的に企業から研究資金をサポートしてもらえる研究所が増えて100%フルに研究に専念できる環境ができるということです。時間もお金も全て研究に使っていいですよっていうのはなかなか難しいとは思うのですが、そういう仕組みもゆくゆくはできるといいなと思います。

インタビュアー:そうですね。仰るとおり、100%フルでというのは難しいかもしれませんが、まずは50%からでも半分半分で両立できるようなもう一段階前の環境からスタートしながら移行していくというのも考えられるといいですね。

百瀬さん 最近、私が研究所に関して興味を持ったニュースがあって、東大に愛猫家から「腎臓病薬開発」に2億円超の寄付が殺到したというニュースです。

【独自】愛猫家らから2億円超の寄付殺到…猫の腎臓病治療薬、東大が臨床試験再開へ

読売新聞オンラインニュース

研究テーマに対して寄付が集まり、創薬・実用化を加速化させるため、学外に新しい研究組織を立ち上げるという、まさに理想的だなと感じられるニュースでした。

結婚、出産、子育てと研究の両立など、女性ならではの苦労や悩まれていることなどありましたら教えて下さい。

百瀬さん:私は両立が大変だとかはそんなに感じたことはなくて、それは家族の理解があるからだと感じています。ただ、キャリアの部分で言うと、「自分の描いた通りにキャリアが進まないということが起こりうる」ということです。

多分それは全員ではなく、一部の人だとは思うのですが、私の場合だと子供が生まれてその後、産休・育休を取ることになった時、様々な要因により想定よりも長く休暇を取らなくてはいけなくなってしまったんです。これは結構悩みました。でもそうなった原因はプラベートなことであり、人に話せるような話でもないことだったのですが、「そんなに休んで」とか心無い言葉を言う方もいました。

 また、その時本来であれば、海外の研究所に所属している時期だったので2年〜3年くらいは海外いるはずだったのですが、物理的には半年くらいしかいることが出来なかったということもあり、「たった半年しか海外にいなかったのに海外経験あるって言えるの?」と言われたこともありました。

結構ポスドクのキャリアって何年そこにいたかというのもありますが、何箇所でポスドクを務めたかと言うのもキャリアの中で見られるので、こういうことが起こると理由があって短期間しかいることができなかったところも実績の1つとしてカウントされてしまうので、経験豊富としてみなされてしまうところが自分としてもどうしていいのかわからないと悩むことがいまだにあります。

インタビュアー:ポスドクとしてのキャリアで所属箇所が多いのと少ないのはどちらの方が一般的な見え方として良いのでしょうか?

百瀬さん:少なくて長い期間務めているのがいいとされることが多いです。海外でもよく言われるのが、3ポスドクといって「3箇所ポスドクをやってポストが取れなかったらもう無理でしょ」と言われたりします。

インタビュアー:海外でもそう言う物言いみたいなのがあるんですね。日本でも民間企業では一社で長く働いて全うするというのが良いという風潮がいまだにあったりしますもんね。

百瀬さん:ポスドクもファースト、セカンドと呼ばれることがあるんですけど、任期が「2年を2回」なのか「5年を2回」なのか、「どこに所属していた」のかでも違ってきたりと、単純比較できない部分ではあると思うのですが、結局何箇所かということだけで見られてしまうこともあるのでなかなか難しいと感じます。

女性ならではの悩みというと、チクチク言われることが女性は比較的ずっとあるのでしんどいなって思うことがありますね。(笑)

これから理系に進もうとしている学生さんや、研究者になりたいと考えている学生さんに、アドバイスをいただけませんでしょうか。 

百瀬さん:信頼できて相談できる相手をまわりに見つけておくことだと思います。また、私自身もそんな人がいたら相談にのってあげられるような人になりたいと思っています。

この道を進んでいく中で「やりたい」けど「辛い」と思う時ってすごくあると思っていて、「辛い」を選択してしまい辞めてしまう人も多いと思うんですね。そんな時は、やりたいと思ったことは恐れずに低空飛行でもいいから続けることが大事だと思いますし、「やりたい」が続けられるようなサポートをしてくれるような人がまわりにいるととても心強いと思います。

(取材:2022年1月28日)