いまも深刻な「ポスドク問題」後編

優秀な人材の海外流出

ポスドク問題の原因は、大学院重点化(院生の供給量増加に対して彼らが最終的に働く数大学のポストの数はさほど増やされないという需給のミスマッチが 生じている。)以降の博士人材の増加に対し、ポストが増加しなかったことであると考えられています。

その一方で、海外ではポスドク問題というのは日本ほど大きな問題となっていません。 この理由の1つとして、博士人材が民間企業などへも就職できている点が挙げられます (企業研究者に占める博士人材の割合は、オーストラリアの17.1%に対し、日本は4.4%)。

この対策として後半説明します「卓越研究員制度」という支援事業も行われています。しかしながら、企業が関わる採用は年間に30例程度と、現状のポスドク問題の改善には不十分なのが現実です。

その結果として、ポスドク問題に直面した優秀な人材の海外流失へとつながっている現実があります。

若者の博士離れ

文部科学省「学校基本調査」における修士課程修了者の進学率によると、1981 年度(18.7%)から 2020 年度(9.4%)にかけて 9.3 ポイント減少していることが わかります。特に「大学院重点化」の10年間が終了した年である2000年度以降の減少傾向は顕著に表れています。

また、いわゆる博士課程に進む標準的な年齢である 24 歳人口に関しても、2000年度(180 万人)から 2019 年度(129 万人)にかけて減少していることがデータ からも読み取くことができます(図表1)。

参照:博士離れの要因についての一考察

卓越研究員制度とは?

ポスドク問題 前編、後編でも取り上げたように「ポスドク問題」には様々な要因が見受けられます。

そんな中、文部科学省管轄の日本学術振興会が実施している「若手研究員が研究機関で安心して働ける環境を作るため」の支援事業として卓越研究員制度というものがあります。

卓越研究員制度は、新たな研究領域に挑戦するような若手研究者が、安定かつ自立して研究を推進できるような環境を整備することを目的に実施されています。

産学官を通じて実現するとともに、産業界をはじめとして、若手研究者が活躍し得る新たなキャリアパスを提示することを目的として、 文部科学省や日本学術振興会が、研究機関や企業からの採用を取りまとめ、若手研究者に対し卓越研究員の募集という形で公募を行います。

すなわち、文部科学省などが、研究機関と若手研究者のマッチングを行う制度ともいえるでしょう。

参照:日本学術振興会 卓越研究員事業

R3卓越研究員事業公募説明会資料(申請者向け)

卓越研究員事業の実施プロセス(令和3年度公募)

出典:文部科学省 令和3年度科学技術人材育成費補助事業「卓越研究員事業」公募情報

卓越研究者になるための必要な要件

卓越研究者に申請するには、以下の5点が要件となっています。

① 博士の学位を取得又は博士課程に標準修業年限以上在学し、所定の単位を修得の上、退学した者(いわゆる「満期退学者」)

② 令和4年4月1日現在、40歳未満(ただし、臨床研修を課された医学系分野におい ては43歳未満)の者。なお、出産又は育児により、合計3か月以上の間、研究を中断 した者(性別を問わない)については、個別の事情に応じ、1~2年程度、年齢要件 について配慮。

直近の5年間(2016年度以降)に研究実績(博士号取得者は博士論文を含めて もよい)があること

これまで文部科学省から卓越研究員として決定されたことがない者

⑤ 日本国籍を持つ者、又は我が国に永住を許可されている外国人 or 我が国と国交がある国の国籍を有する者(台湾及びパレスチナの研究者については、これに準じて取り扱う。)

参照:R3卓越研究員事業公募説明会資料(申請者向け)

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